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(24)座位保持が困難でもトイレ介助は一人で大丈夫! [介護]

ALSでは手足が動かないだけでなく、他にもいろいろな症状が出現してきます。人によって病状の進行状況には違いがあると思いますが、私の場合は座位の保持が徐々に困難になってきています。座位の保持が困難になってくるに伴い、家族の介助、特に1人での介助では危ないと感じる場面が増えてきました。中でも日々のトイレ介助における転倒リスクは大きく、今のうちに対応策を確立しなければQOL維持が困難になる恐れもあります。

座位の保持ができないということは、身体を支えるもの無しには便座に座ることができないのです。つまり、トイレで用をたすためには常に支えが必要になるのです。当然ながらトイレ以外でも支えが無いと座ることもできません。椅子では背もたれが必須、さらに左右への転倒を防止する肘掛けも必要です。このような状態にあってもQOL低下を招かないように対応策を考えなければなりません。そこで今回は、座位を全く保持できない状態でも、1人介助で安全にトイレに行くことを可能にする工夫について紹介します。

着座状態からトイレヘの移動には以前のブログ(18)で紹介した移乗機『かーるくん』(図1)を使用します。この『かーるくん』には着座姿勢で上体を胸当てに固定する初期状態(図1(a))、ペダルを踏み込み上体を引き上げて移動を可能にする立位状態(図1(b))があります。上体を胸当てに固定するには付属品の総長さ約120cm、緑色でクッション状の丸ベルトを用い、両脇を通して左右のベルト掛けに引っ掛けます。

図24-1.jpg


『かーるくん』でトイレに移動後、図1(a)の状態に戻すことで便座に降ろしてもらいます。着座後に座り直す事が自分ではできないので、最初から最適位置に着座させてもらう必要があります。そのため、介助者には『かーるくん』の微妙な操作に慣れてもらう必要があります。

座位保持が可能であった頃は、上体を固定している丸ベルトを外して『かーるくん』をトイレ外に出していました。しかし、現在は丸ベルトを外さずそのままにしています。この着座した状態でのトイレ全体の位置関係は、概ね図2に示すようになっています。当初はこの状態に圧迫感を感じましたが、慣れれば問題無しです。上体が固定されているので安全ですし、少し前傾する姿勢のため腹部にも力を入れやすいです。このようにすることで、用をたすまでは安全になりました。尚、図2の作成には設備位置などの正確な測長が必要で、妻やヘルパーさんにご協力いただきました。

図24-2.jpg


問題は用をたした後の処置です。やはり上体から丸ベルトを外し、『かーるくん』をトイレ外に一旦出す必要があります。この際の安全確保をどうするかは、座位保持が困難な場合には難題です。まず思いつくのは背もたれをつけることです。しかし、多額の費用が必要な改修工事はしたくありません。そこで、既存のトイレ設備をそのまま活かした背もたれを、DIYで作製してみることにしました。実際に手足を動かしていただく妻にはブログ(19)で紹介した様なアングル(L型の鉄製棒材)を用いた工作実績もあり、今回も活躍していただこうと思います。

今回の背もたれ作製DIYにおける目標仕様は次の通りです。
(1)安全に座位保持が可能であること。
(2)使用時の操作手順が簡単であること。
(3)既存の設備がそのまま使用可能であること。
(4)安価であること。
(5)妻が可能なレベルの工作であること。

これらの仕様を満たす背もたれを考えます。単に背もたれを作製するだけならすぐに何とかなりそうですが、今回で難しいのは(3)です。それは背もたれ設置位置に開閉動作するトイレカバーがあるのです。トイレカバーを取り外せば良いのですが、それは取りたくない手段です。そうなると、必要時にのみ背もたれが存在するような構造を考えなければなりません。色々な方法が考えられますが、今回は『かーるくん』の丸ベルトを用いて背もたれを構築する方法で検討を進めることにしました。

前述のように、トイレまでの移動および着座において丸ベルトは、その両端を『かーるくん』本体のベルト掛けに引っ掛けて上体を固定しています。それを外してトイレの左右の壁に固定できれば、丸ベルトで背もたれを作れるのではと考えたのです。この方法なら左右にベルト掛けを取り付ければ良いので、工作的にも簡単に済みそうです。さらに、必要時にのみ背もたれを取り付けることになるので、トイレカバー動作にも影響しません。また、介助側にとっても『かーるくん』本体をトイレ外に出す手順と変わりなく、上体を丸ベルトにもたれかからせる手順追加で済むのです。この手法が上手くいけば目標仕様の(2)、(3)、(5)はクリアできると思います。(1)、(4)については、実際に作製して検証することになります。

背もたれを実現するためのベルト掛け取り付け位置は、最終的には現物合わせで決定しますが図2の現状配置から見積リます。壁に穴を開けることもしたくないので、床面から支柱を立ててベルト掛けを取り付ける構造を考えます。しかし、トイレ入口から向かって左壁にタオルハンガー、トイレットペーパーホルダー、右壁にリモコンがあるため、それらを回避して床面から垂直に支柱を立てると左右の配置が非対称になることが図2から分かります。もっと入口側に支柱を立てることは『かーるくん』操縦の障害となるのです。障害物を移動させる方法もありますが、そもそも使いやすい場所に設置しているはずなので、移動しないで何とかしなければなりません。壁に穴を開けることをしないとなれば、ベルト掛けを取り付ける支柱を斜めに通すしかありません。

当初はアングルを用いて設計していました。アングルは入手しやすいので良いかと思っていたのですが、逆に手間がかかって大変なことが判明したのです。それは、最適な長さに切断するのが大変なのです。販売されているアングルの長さは数種類しかなく、所望の長さに切断したものを購入できる販売店を見つけ出せませんでした。購入した物については切断可能なホームセンターもあるようですが、近隣の店舗では卓上のハンドソーで切断してくださいとのことでした。アングルの切断にはアングルカッターでないと時間もかかるし 切断面がきれいではないです。アングルを販売しているならアングルカッターは置いて欲しいですね。Amazonでも購入可能ですが、保管場所に困る大きさなのです。

そこで、アングルに代わる材料として選んだのがイレクターパイプという金属パイプです。外径28mm、表面を樹脂でコーティングしているパイプは、mm単位で長さを指定して購入することができる上、自分での切断も簡単です。切断するためのパイプカッターという工具は2,000円前後で購入できます。また、パイプを接続するためにはジョイントという金具を使います。六角レンチで締め付けるだけなので簡単です。今回利用したのは次の2店です。
スペーシア株式会社 (イレクターパイプをmm単位で指定して購入できます。標準パイプだと10cmで37円です。)
有限会社エヌティワイ (ジョイントはスペーシアより安価です。)

私自身はイレクターパイプを使うのは初めてですが、それほど難しくはなさそうです。実際に手を動かすのは私ではないのですが。。。。
このイレクターパイプとジョイントを用いて設計した背もたれ構造が図3です。図3では左側面から見たものですが、右側面からも同一寸法の対称構造となっており、障害となるものを回避することができました。この両側を組み立て、左右をパイプで接続すると完成です。全て組み上げてからだとトイレのドアを通せないので、最後はトイレ内で接続、固定作業を行います。これが結構大変だったそうです。

図24-3.jpg


トイレに設置した完成写真を図4(a)に示します。ベルト掛けを取り付けた斜めのイレクターパイプとそれを支える支柱が左右に配置され、それを3本のパイプで接続、固定しています。丸ベルトは人がもたれかかると適切な位置になるように調整されています。また、丸ベルトにもたれると左右のパイプが内側に引っ張られる力が働きますが、左右を繋いだパイプとジョイント(NTY‐2B)で変形しないように支えることができています。さらに、イレクターパイプには想定以上に強度があったので、当初の設計より柱の数が少なくて済みました。

この背もたれ製作にかかった費用は総額10,200円です。内訳はイレクターパイプ4,800円、ジョイント5,400円でした。パイプカッターや六角レンチ等の工具は既に手元にあったものを使用しました。設計図の精度向上が出来れば自分で切断することはないのですが、今回は数回の切断作業が発生しました。表面に樹脂のあるイレクターパイプの切断は、工具の切れ味が良くなかったこともあり、妻はかなり体力を消耗したようです。

妻の頑張りもあり、背もたれは完成です。次は実際にもたれて、ベルト掛け取り付け位置調整、操作手順を確認します。当初は両脇に丸ベルトを抱えた状態で背もたれにもたれ掛かる予定でした。しかし、上体が前に倒れる体勢になり、ベルト掛け取り付け位置の調整だけでは対応できないことが判明しました。そこで、丸ベルトを両脇から抜いた状態にすることで、前方に倒れない姿勢を取ることが出来ました。この調整を難しくしているのは、トイレカバーとの干渉です。もたれ掛かる姿勢を取るには、丸ベルトを後方に配置する方が好都合です。ところが、丸ベルトのクッションが厚くトイレカバーに接触するため、後方配置には限度があるのです。体格の大きい方では丸ベルトを用いると、もたれる姿勢を取れないかもしれません。その場合は、背もたれを薄い素材で作製するしかありません。

図24-4.jpg


なんとか基本手順が確定したので運用開始です。しかし、実際に運用してすぐに、右側面を空ける必要があることが判明しました。そこで図4(b)に示すように左奥側にフックを設け、丸ベルト右側を左奥側フックに掛け替えることで右側面にスペースを確保することにしました。併せてこの掛け替え操作を安全に行う手順についても確認できました。

ともあれ、これで背もたれを無事に作製することができました。完全に固定された背もたれではないので若干の揺れがありますが、もたれた状態では安定しており安心感があります。そして、左右に通したイレクターパイプで後頭部を支えると、さらに安定感が増すことも分かりました。


【まとめ】
(1)座位保持が困難であっても、移乗機『かーるくん』の丸ベルトを身体固定、さらに背もたれに用いることで、安全にトイレに行くことが可能であることを紹介しました。

(2)「背もたれ」となる丸ベルトを取り付ける支柱を斜めに配置することで、既存のトイレ設備に影響することなく設計することができました。

(3)イレクターパイプを用いた今回の背もたれ作製にかかった費用は総額10,200円と安価でした。
イレクターパイプはその長さをミリ単位で指定して購入可能な上、自分でも切断可能なため設計自由度が高いです。

(4)今回のDIYでは、イレクターパイプの切断、ジョイントを用いた接続、組立、設置、調整までを妻が頑張ってくれました。感謝、感謝です。
今後の保守、点検作業もお願いしようと思います。


以上のように目標仕様をクリアすることができました。妻をはじめ、ご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。
今回紹介した手法が、同様の問題でお困りの方に少しでも役立てば嬉しいです。


【追記】
・このブログ内の図面はマイクロソフトのパワーポイントで作成しています。全て視線入力で、Tobii アイトラッカー4C、Windows11の標準アプリを使用しています。パソコンはごく普通のデスクトップ型、23インチモニターです。
・移乗機『かーるくん』は介護保険でレンタルも可能です。ケアマネやケアショップにご相談されると良いと思います。
有限会社 早川テクノエイド研究所のホームページには動画を交えて紹介されているので、是非ご覧ください。
購入する場合はかなり高額です。検索すると多数ヒットしますが、以下はその1つです。




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