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(19)クッションに代わる痛み低減装置 [介護]


手足の動かせない障害者は、1日のほとんどを椅子かベッドで過ごすことになります。この日常生活を快適に過ごすのも、筋肉が痩せ細る病気ともなると簡単ではありません。特に椅子で過ごす際に生じる坐骨部の痛みは厄介です。

これまでのブログでも紹介したように様々なクッションを試してきましたが、クッションによる着座時の痛みの低減には原理的に限度があります。それはクッションでの除圧手段は限られているからです。クッションにかかる単位面積当たりの重量を低減させるには、接地面積を広くしなければなりません。ところが、着座状態で接地面積を大きくする手段はクッションを柔らかくするくらいですが、大した効果は見込めません。

前々回紹介のノープレッシャークッションのように切り込み(オープンポケット)を設けて痛む個所を回避できれば良いですが、これにも問題があります。坐骨を浮かせるにはオープンポケット部を大きくしなければなりません。しかし、長時間の使用ではオープンポケット部以外の部分で支える重量が大きくなることによる痛み発生が避けられません。そうなると、身体を動かせない障害者には為す術がないのです。

では、クッションで充分な痛み低減ができず、日々の生活が困難になった場合、痛み止めの薬を強くしてもらうかベッドでの生活を選択するしかないのでしょうか?

残された方法は物理的に痛みが発生しないようにすることです。それはノープレッシャークッションのように切れ込みを入れるのではありません。痛くなったら臀部を引き上げることを自分でできれば良いのです。

という経緯で、好きな時に自分で体を吊り上げる手法を調査・検討しました。この手の吊上げ機は介護リフトとして販売されていますが、100万円以上と高額です。私が目指すのは、臀部の痛みが和らぐ程度に体が浮かせれば良いのです。移動する機能までは必要ありません。いろいろ調べたのですが市販品は見つけられませんでした。そこで、次のように設計仕様を定め、自作可能かを検討しました。

《設計仕様》
1) 着座面から臀部の引き上げ下げが自由に可能
2) 着座時及び引き上げ時の作業性を確保
(パソコン操作可能、お茶が飲めるなど)
3) 取り付け、取り外しが容易
(介助者1人で可能な作業内容であること)
4) 静音
5) 声、あるいはパソコンでの操作が可能
6) 妻が可能なレベルの工作

体重50kgを吊り上げるのには、どのようなモーターを使えば良いのだろうか?ギアボックスはどうしよう。市販品で流用可能な物はないかと、ウィンチ、滑車、投影用幕等モーターで引き上げる機能を持つ物をネット検索しました。しかし、転用できそうな既製品は見つかりませんでした。

そこで、現在利用中の電動ベッドや電動昇降椅子にどのようなモーターやギアが用いられているのかを調べようと考えました。しかし、製品カタログには記載されていません。現物を分解調査すればよいのですが、妻にお願いするには難し過ぎる気がします。

既製品の組み合わせで何とかならないものかと検討していると、臀部を浮かすだけなら必ずしも吊上げなくても可能だと気がつきました。体を吊り上げることと、着座面、すなわち椅子を下げる事は相対的に等価です。しかも、椅子の上下降は既に声で操作可能になっています。一気に完成品イメージも出来上がりました。吊り上げるハーネス等を身体に取り付けて着席します。ハーネスはロープを用いて上方に固定されており、座面を下げると身体が吊られて臀部が浮くのです。これなら作製する部分はハーネスを固定する部分だけで済みます。これも30年以上昔に流行った『ぶら下がり健康器』のような形状にすればよさそうです。

アングルで組み上げれば簡単に実現できそうということで図面を書いてみました。今回使用している電動昇降椅子は図1に示すコムラ製作所製 『くるり』です。

図19-1.jpg


以前のブログ(12)でも紹介したように、この電動昇降椅子を声やパソコンでの操作が可能になるように機能追加しています。この『くるり』の左右回転機能を損なうことなくハーネス等を吊り下げる支柱を設計したのが図2です。

図19-2.jpg


『くるり』の図面をコムラ製作所ホームページからダウンロードできたのでとても簡単にできました。左右2本の支柱上部から前方に伸びた梁で約50kgの体重を支えることになります。強度を持たすために筋交い等の補強は現物を見ながら随時追加します。尚、アングル等鋼材の強度見積りは、便利なサイトがあります。
https://d-engineer.com/unit_formula/haritawami.html#no1

このサイトでいろいろと検討して、使用するアングル(L-40WP)を決めました。私より体重の重い方はL型アングルでは強度不足になる可能性があるので注意が必要です。

ここまでできれば、材料を発注して組み立てるだけでほぼ完成です。アングル等はホームセンターで購入した方が現物を確認できる上に安価ですが、品揃えが充実しており外出しなくてよいネット通販を利用して全て調達しました。アングル以外に追加したものとしては床面に接するアングルに取り付けるアジャスターボルト、アングル端面が出る箇所にキャップがあります。総額10000円程度です。

支柱が完成すれば次はロープです。ロープは充分な強度のある登山用、モンベル 15mm ナイロンスリングを採用しました。モンベルのネット通販で1mあたり275円、必要長さでの購入が可能です。ロープをアングルに引っ掛けるのは充分な強度のあるカラビナを使いました。

最後の課題は身体を吊るすためのハーネスです。登山用、高所作業用など様々なタイプの既製品を調べました。しかし、坐骨や尾骶骨への圧迫が無く、着脱が容易で、着座時動作への影響が小さく、さらに2本のロープで上体を上方へ引き上げるタイプは介護用しかありませんでした。結局、採用したのは図3に示す明電興産株式会社の天井走行式リフト用吊り具 ツーピースベルトです。

図19-3.jpg


もっと頑張って調べれば他にもあるかもしれませんが、まずはこれから始めることにしました。

以上で吊り下げ式痛み低減装置は完成です。また、電動昇降椅子を利用することで当初の設計仕様を全て満たすことができました。
完成した装置写真を図4に示します。

図19-4.jpg


上部の梁に掛けられたロープにベルトがカラビナで取り付けられています。ロープのもう一端はアングルの支柱に取り付けられており、ベルトの高さに応じて取り付け箇所を調整します。

当初は両脇を通すベルトも使用していましたが、上体の自由度が少なくなるため使わなくなりました。図5に側面から見た座面下降時の変化を示します。

図19-5.jpg


座面が下降すると、ベルトにテンションがかかり若干ですが太もも部が引き上げられています。臀部が浮くまでには至っていませんが、この状態でも充分な痛み低減効果がありました。この場合、上体は太もものベルトだけで引き上げられているのではありません。電動昇降椅子の背もたれにも上体を支える力が働いています。

これで万事解決だと思っていましたが、問題発生です。というのも最近、太ももの筋肉が痩せてきたためか、長時間使用するとベルトの当たる部分が圧迫されて痛むようになりました。そのような場合、ベルトを緩める為に座面を上昇させ、坐骨が痛くなると座面を下げることを繰り返しています。さらに、ベルトが硬いのでクッションで覆って使うようになりました。この辺についてはまだ改善が必要です。

太もも部分だけのベルトで吊下げる場合は、背もたれで一部を支えているとは言えクッションと同様の問題に直面する可能性があります。その場合は、ベルトを改良するか、もう1つのベルト(両脇を通すタイプ)を適用することになりそうです。



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