身体障害者にとって、スマート機器は生活の質(QOL)を向上させるために必須なものと言えます。本ブログでもこれまで8回に渡ってスマート機器を用いた工夫を中心に紹介してきました。私のブログを見て実践された方がどれほど居られるかは判りませんが、多くの方々のQOL向上に役立つ情報を提供できたと思っています。しかし、私のところに出入りされている方々から、もっと基本的なことを教えて欲しいとのリクエストを多数受けました。そこで、今回はスマート機器導入を検討されている初心者に役立つ基礎知識をお伝えしたいと思います。

スマート機器の定義は不明確ですが、最新技術が適用された情報・通信機器を指すとして間違いないと思います。スマートスピーカーはスマート機器の中核となるもので、全てはこれから始まります。他にもスマホ、赤外線コントローラー、スイッチボット、スマートプラグ、スマートロック等がスマート機器の範疇に入ります。そこで今回はスマートスピーカーを中心に、スマート機器の全貌が理解できるように説明します。

スマートスピーカーは大きく分類するとAmazon、Google、Lineと最近発売されたAppleの4系統があります。Amazon、Googleにはサードパーティー品が多数あります。各社ともユーザー囲い込みをしており互換性や連携はなく 、その会社の提供するサービスしか受けられません。

スマートスピーカーで何ができるのかは多くのサイトで紹介されていますが、その本質は音声認識です。スマート"スピーカー"とは言うものの、実態は各社のサーバーと呼ばれる高速のコンピュータに接続されたマイクの役割を果たしています。スマートスピーカーで聞き取った命令を、インターネット経由でサーバーに送信し、そこで音声認識、解釈して、処理に対応した機器にインターネットを経由して指示を発信しています。
この際、処理に対応する機器として多いのが赤外線コントローラーです。詳細は後述しますが、SwitchBot Hub mini、Nature Remoをはじめ、多くの製品が発売されています。末尾にリンクを貼っておきましたので、ご参照下さい。

次にエアコンのスイッチをAmazonのスマートスピーカー(Alexa)でオンにする場合を例に考えてみます。図1に機器間のネットワーク環境を示します。



エアコンはリモコンで操作するタイプのごく普通の機種で、最近売られているスマートスピーカー対応ではありません。通常はリモコンから①に示す赤外線が送信されエアコン本体が制御されています。このエアコンをAlexaで制御するためには赤外線コントローラーを導入する必要があります。赤外線コントローラーとはエアコンのリモコン機能を代替するもので、登録したリモコンボタンと同じ赤外線信号を出すことが可能です。つまり、図1では①=②です。スマートスピーカーと赤外線コントローラーはともにWi‐Fi(③,④)で無線LAN親機に接続され、宅外のインターネット回線⑥を経由してAmazonのサーバーに繋がっています。

「アレクサ、エアコンをつけて」と発すると、スマートスピーカーが「アレクサ」というウェイクワードで電源が入り、「エアコンをつけて」という音声が④、⑤を経由してAmazonサーバーに送信されます。そこでは、私のアカウントからAmazonサーバーに送信された「エアコンをつけて」という音声が、エアコンの電源を入れることだと解釈します。そしてサーバーは、エアコン電源ボタンを押した際に発出される赤外線信号と同じ信号(①=②)を発出するように赤外線コントローラーに命令を送信します。赤外線コントローラーはサーバーからの指示に基づいた赤外線信号を発し、エアコンがオンになるのです。経路は⑥→③→②となります。

このようにして、スマートスピーカーに向かって発した音声命令が自宅の家電を制御しているのです。アレクサ対応などと謳われる家電とは、赤外線コントローラーを経由するのではなく、直接無線(Wi‐Fi)で制御されているようです。無線LAN親機から③がそのまま家電に繋がるイメージです。

スマートスピーカーの動作を理解すると、可能なことも自ずと判ってきます。赤外線コントローラーを導入して連携させると、赤外線リモコンで操作している家電なら何でも声で操作可能になります。わざわざスマート対応家電に買い替える必要はないですよ。家電のリモコンは殆どが赤外線を用いています。中にはパナソニックのHDDレコーダーのように赤外線ではなく無線を使ったリモコンもありますが、赤外線にも切り替え出来ます。私のこれまでの経験では、Amazon Fire TVのリモコンのみが無線でしか使えなかったです。

一方、赤外線コントローラーではなくスマートスピーカー自体に命令をするような処理(図1で⑤→④)は、スマートスピーカーは単なるスピーカーです。音楽、ニュース、天気予報を聴いたり、メモを残したり、タイマー、アラームなどがあり、サーバーで処理した結果を再生しているだけです。Alexaの場合、月500円のAmazon Primeを契約するとAmazon Musicで音楽を聴けます。更にこの契約でPrime Videoで配信されている映画等をインターネットで見ることができますし、Amazonで購入した際の配送でも優遇があります。各社によって提供されるサービス内容に違いがありますので、機種選定の際は自分に合ったものを考えて下さいね。

次に、この環境を実現するに必要な手順を説明します。尚、AmazonのAlexaを導入することを前提にしていますが、他社製品でも大差ないと思います。

(1) 無線LAN環境の準備
スマートスピーカーの導入には無線LAN(Wi‐Fi)環境が必要です。有線では接続できません。現時点では無線LAN環境はほとんどの機種が対応している2.4GHz帯の方が良いと思います。2.4GHz帯とは802.11b、802.11g、802.11nという規格で呼ばれているものです。自宅に有線の光回線などインターネット環境がある場合は無線LAN親機を導入すればOKです。通信速度は300Mbpsもあれば充分で3000円前後であります。そもそもインターネット環境が無い場合、色々な通信会社から発売されているポケットルーター(月3500円程度プラス機器代)か、スマホのテザリングを利用する方法があります。スマホは安くなるので月20GBで何とかなるかもしれませんね。私の経験では、1週間の入院中にテレビ操作、ニュース等を聞くだけで500MB程度消費しました。音楽を聴くともう少しデータ量が必要になりますが、どの程度かは判りません。

(2) スマートスピーカー設定
スマートスピーカーはボタンも少なく、一部の機種を除いてモニター画面もありません。そのため、スマホからスマートスピーカーを制御して設定する手法を取っており、スマホにAlexaアプリをインストールしなければなりません。全ての設定はこのアプリの指示に従って行います。このアプリは、スマホとAlexaをBluetooth⑦で接続し、Wi‐Fi④で無線LAN親機に接続させるためのSSID、パスワードをAlexaに設定します。この作業ではAmazonのアカウントが必要になります。どのアカウントのAlexaからの音声かをサーバーで区別するためです。

(3) 赤外線コントローラー設定
これもスマートスピーカーと同じく専用アプリのインストール及びアカウントが必要です。スマホからBluetooth⑥で赤外線コントローラーを制御してWi‐Fi③で無線LAN親機に接続させます。ネットワークに接続できれば、次は①=②とするために、Alexaで制御するエアコンのリモコンを登録します。エアコンによってはリストから選択することで完了します。そうでなくても、ボタン一つ一つを赤外線コントローラーに登録すればOKです。この時に登録した呼称が、Alexaでの指示する際の名称になります。

(4) 連携設定
これまでの手順で終りではありません。このままではAmazonサーバーから指示が赤外線コントローラーに返ってきません。そこで必要なのが赤外線コントローラーのAlexaとの連携です。つまり、Alexaアプリに赤外線コントローラーを認識させる作業が必要です。具体的にはAlexaアプリから新たなデバイスとして赤外線コントローラーを追加するという作業になります。赤外線コントローラーや他のスマート機器にはAlexaと連携可能との記載があるはずです。この機能が無いとAlexaから制御できないのです。以前はこの連携には有効期限があり、切れる度に赤外線コントローラーを再認識させる必要がありました。最近は10年の期限になったそうです。

以上で設定は完了です。ここではエアコンを例に説明しましたが、テレビ、照明等でも本質は同じです。

これまでの説明でスマートスピーカーとは各社のサーバーに接続されたマイクとスピーカー機能を持つものであることを御理解頂けたでしょうか。スマートスピーカー自体で音声認識の処理をしているわけではないのです。通信速度とサーバー処理速度の向上により、実用的な時間で応答できるようになったことがスマートスピーカーを登場させたのです。Google AssistantやAppleのSiriも同じ原理です。また、音声認識をサーバーで処理しているため、利用者から大量の音声を収集することが可能です。この音声を用いて常に音声認識精度向上を図っています。スマートスピーカー毎日使っていると、同じように発声しているにもかかわらず日によって音声認識できなかったりすることがあると思います。これは、サーバー側で音声認識の何かが変更がされたと考えられます。

スマートスピーカーを使うことは便利である一方で、個人情報も吸い上げられています。サーバーを管理、運営する会社はスマートスピーカーを通して膨大な個人情報を収集することができます。個人を特定しないまでも、アプリインストール時に入力必須のスマホ電話番号やメルアドとは紐づけされています。スマホGPS情報と合わせると、行動、嗜好などが全て把握されていることになります。スマートスピーカーを売るだけというビジネスモデルではないのです。私はAmazonのスマートスピーカーを使用していますが、Amazonで物を購入すると、配達日にスマートスピーカーがオレンジ色に光ってどんな荷物が届くのかの通知が届きます。全て把握されているのです。このような事はスマホでも行われています。スマート機器を使う場合は、この様な事実を理解しておいてくださいね。

今回は基本事項のつもりで書き出したのですが、説明が少々難しくなったかもしれません。実際の設定画面を用いた説明は他のサイトに任せて、何のためにしている作業なのかが判るように心掛けました。今後、スマート機器を導入される方のお役に立てればと思います。





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  • メディア: Tools & Hardware